03.正義の味方

 何も気にしていない風に、ローザが問う。

「かすり傷なので。痕は残るかもしれないって言われましたけど」

「感染症には気をつけて」

「はい」

 普段と同じトーンで交わされた会話は、そこで途切れた。

 沈黙。その間、何かを思うように新聞の見出しを撫でていた細い指が、唐突に新聞の端を握り締めた。

 怪盗団なんてものを立ち上げて、本気で義賊じみたことをやってのけようとする。ローザはそういう人間だった。普通の人生を歩みかけていたキースが、昔かじっていた程度のピッキングを極めて彼女についていこうと思ったのは、彼女が持つ正義感を羨ましいと思ったからだ。

 彼女は本気で、『正義の味方』であろうとしている。

 ただの怪盗であることを、彼女自身、自覚したまま。

「これで、終わらないわよ」

 ローザの瞳は、ウェルスバンクの文字を睨みつけていた。


 ──彼らが小国にとっての『正義の味方』になるのは、それから三年が経った後である。