02.マドンナの秘密

 耳をすませてみれば、確かにヘリコプター特有のローター音が聞こえる。近づかれる前に五桁目を見つけなければ、と焦る心が集中力を乱し、すぐに見つけられるはずの数字が見つからない。

「軍事用ではない、が……武装した人間が乗っている。窓から離れろ」

 サイラスの指示はローザに向けられたものだろう。キースはデスクの下にしゃがみこんだまま五桁目を見つけるまで動けず、背後には窓がある。

 そちら側に回りこまれたら、終わりだ。

「応戦できる?」

「最善は尽くす。──来るぞ、伏せろ」

 会話の直後、何百と吐き出された弾丸が窓ガラスを突き破って室内へとなだれ込んだ。

 応接用と思しきガラステーブルは破壊され、ソファには弾丸が突き刺さり、床に散らばったガラスはどこから飛んできたものなのかも分からない。幾重にも響く破砕音に妨害され、キースはたまらずにダイヤルから手を離した。

 デスクに手をかけ、姿勢を低くしたまま室内を窺う。

「無事ですか!?」

「生きてるわ。作業を続けてちょうだい。できるだけはやく!」

 ローザの声はソファの後ろから。割れた窓の近くからは、サイラスのものと思われる銃声が聞こえてくる。ここまで来れば隠密行動に意味はないためか、威力を軽減させるだけの消音器は取り外したようだった。

 キースは再びデスクの下へ。かすかな振動を頼りに五桁目を探す。

 ローター音と銃声、焦げ臭いにおいが部屋にむせ返る。キースは半ば無意識に目を閉じて、意識を指先だけに向ける。〇から九までの数字をひとつひとつ確認し──かちり、と確かな手ごたえが返ってきたところで目を開けた。