02.マドンナの秘密

「マドンナが行っていたと考えられるのは、ウェルスバンクの反政府組織からの紛争ダイヤモンドの輸入。つまりは反政府組織へ外貨を提供する金銭的援助だったわけだけれど──ここから先は仮定の話よ。もし、マドンナが宝石以外の貿易にも手を出していたら。もし、武器の取引に手を出していたら。もし、外貨の代わりに武器の援助を行っていたら。もし、本社の警備員に『あまりもの』を持たせて、私兵のように扱っていたら」

 キースの頬を汗が伝う。

 宝飾と武器。一見もっとも遠い場所にあると思える二つだが、需要と供給という意味ではこれほどバランスの取れたものはない。紛争地帯は武器を求めて鉱脈を探し出し、平和な場所で着飾る人間は宝石を求める。武器の開発には戦争が不可欠だが、同時に裕福でなければ新しいものに手を付ける余裕がない。

 マドンナが安価な宝石を求め、武器の密輸に手を出したとしても、決して突飛な話ではない。

 金庫に隠された闇が、途方もなく深いもののような気がして、キースは止まろうとする指を必死で動かす。

 後悔しても、もう遅い。残りは二桁。引き返すことなどできはしない。

「──サイラス?」

 不意に、ローザが声をあげた。

 デスクの下にもぐりこんでいるキースからはうかがい見ることはできないが、ローザが移動しているような音だけが聞こえてくる。

 もどかしい気持ちのままダイヤルを回し、かちりと音がしたところで止める。四桁目が判明した。

 残りは一桁。それもすぐに見つかる──はずだったのだが。

「ヘリが近づいて来ている」

 サイラスの平坦な声に、キースの肩が跳ねた。