02.マドンナの秘密
彼らの背後には開錠したままの木製扉があった。鍵が開いてからエレベーターが到着するまでに三〇秒。エレベーターから降りた巡回の警備員が社長室の扉を開けようとしなかったという幸運もあり、間一髪、相手に見つかることは免れたといったところだ。
もし、巡回警備員が扉を開けようとしていたら──戦力に数えられるのはサイラスだけ。ローザはナイフの扱いに長けているものの、銃を相手に立ちまわれるとは言えず、キースに至ってはピッキングでしか活躍できないために足手まといにしかならない。
圧倒的な戦力不足。とはいえその原因は、ローザ自身が「人殺しはしない」という主義を持っているからなのだが。
「もらうものをもらって、はやく帰りましょう。また巡回が来たらたまらないわ」
内側から扉に鍵をかけなおし、ローザはうんざりした口調で言った。
一刻もはやく抜け出したいのはキースも同様なので、目当てのものを探して室内を見まわす。
扉の正面には、二つのモニターが並ぶ大きなデスクが鎮座していた。円錐形の構造をしているため、壁はわずかに傾斜していて天井も床より狭い。壁の傾斜に合わせ、三方向にある窓の形も台形に近いものになっていた。超高層に位置しているため、差しこんでくる明かりは月光のみ。地上から見るよりも空が広い。
重要な書類──というよりは、隠すべき書類が入っていそうな金庫は、デスクの足元、板を一枚外した場所に収まっていた。
ダイヤル式の金庫を前に、キースは一度こめかみを揉んでからしゃがみこむ。開錠に必要な数字は五桁。聴覚と触覚だけを頼りに、特定の数字を見つけ出さなければならない。