02.マドンナの秘密

 ローザに促され、キースは息を整えながら社長室の扉へと向かう。上着から工具を取り出し、鍵穴に刺せばそのあとは指先に集中するだけの作業が続く。

 細かい金属音だけが鳴る、静かな時間が数分ほどすぎたところで、

「キース、落ち着いて聞いて」

 硬い声が、背後から投げかけられた。

 ローザの声に反応することができないことにいら立つが、キースはなんとかこらえて作業を続ける。

「エレベーターが動いてるわ。上に来てる」

 わずかに手元が狂った。慌てて元の位置に戻し、さらに指先に集中する。

 背後は見えないが、エレベーターの扉上部にある階数表示はよどみなく進んでいるはずだった。サイラスが銃の安全装置を外す音がする。指先に神経が集中する。ピッキングツールから感じるわずかな振動から内部構造を読み取り──



 リン、と甲高い電子音が鳴った。

 エレベーターが到着したことを知らせる音は、大きくはないものの静寂に包まれたエレベーターホールにはよく響く。

 金属が擦れる音が、警備員の歩みと同じリズムで鳴り、三歩目で止まる。二言三言の会話が交わされたのち、金属音はもう一度三回鳴って、



 ──リン、と電子音が響くと同時、キースは止めていた息をようやく吐き出した。

 隣に立つローザも一息つき、サイラスは無表情のまま安全装置をつけなおす。

「間に合わないかと思ったわ……」

 キースには謝る余裕もない。