02.マドンナの秘密

 高さ三二〇メートル。

 階数七七。

 エレベーターの数は三〇を越え、務める従業員は数えきれないほどいるが、警備員の数ならばローザによって暴かれていた。

「二〇人、ですか」

 確認するように言って、キースは眉を寄せる。前に立つローザとサイラスの背によってビルの根元は見えないが、おそらく二人の視線の先には巡回中の警備員がいるはずだった。

「この大きさで二〇人、と考えると少なく見えるけど、その分機械的なセキュリティがあるはずよ。……搬入口は簡単な鍵みたいだけれど」

 ローザは応えて、目前まで迫った超高層ビルを仰いだ。

 七〇階程度の高さまでは、ガラス張りの四角柱。それ以上の高さは、削られた鉛筆のような円錐型だった。最上階から上は尖塔が生え、ビルは摩天楼にふさわしいほど高く伸びている。

 貿易会社マドンナが建設した本社ビル。

 ビューティフル・ワールド・ビルディングに施された装飾は、「誰にも盗めない宝石」とまで言われている──のだが。

「ナンセンスね。汚いマネをしながら、美しき世界なんて」

 ネーミングセンスに関しては、キースもローザの言葉を否定することはできなかった。

 吐き捨てるように言ったローザは、地上へと目を戻す。キースの位置からは見えない警備員に視線を向けて、傍らの男に問う。

「どう、サイラス」

「装備はいい。裕福な人間が好みそうな最新式だ。全て新品。──しかし、使われた形跡がほとんどない。着る人間は脅威ではないな。確かなのは見える範囲だけだが」

 サイラスの返答は、最初から言葉を用意してあったのではないかと思わせるほどよどみない。