02.マドンナの秘密
彼の手には先日も使用していた猟銃。こちらには催眠弾が装填されており、カメラを潰すためのペイント弾は腰の拳銃に収まっていた。
ビルに軽く視線を向け、
「しばらく見ていれば警備の穴も突けるが」
「いえ、手早く済ませましょう。長引かせた方が危険だわ」
「了解」
サイラスは短く応えて猟銃を構える。発砲音は、銃口にとりつけられた隠密用の消音器に吸収されて霧散。催眠弾はビルの根元にいる警備員に命中してその意識を奪う。
装填と発砲が繰り返され、視界に入る警備員は全て地面に崩れ落ちた。装備品がこすれ合う音が辺りに響くが、気付いたものはいないらしい。
目立った動きがないのを確認して、ローザが、続いてキースとサイラスがビルへと近づく。サイラスが眠っている警備兵を確認している間に、キースがビルの搬入口を開錠。
侵入の手筈が整う。
「あっけないですね……怖いくらいに」
音も立てずに開いた扉を前に、キースが呟いた。両手に持ったピッキング用の工具をしまいこんで振り返ると、ローザが頬に手を当てて佇んでいた。
何かを考えている風ではあったが、時間に余裕があるわけではない。他の警備員が巡回でまわってくる可能性もある──と、胸中で言い訳してから、キースは恐る恐る声をかける。
「ローザ?」
「……ごめんなさい。気にしてる暇はなかったわね」
歩き始めたローザに、「何を」と問いかけることはできなかった。
代わりに、ビルに入りかけたローザが振り返ってキースとサイラスに声をかける。
「見張り、中に入れておいた方がいいわね。お願いしていいかしら?」