01.ブラッディ・ダイヤモンド
部屋には、様々な種類の棚が並んでいた。宝石や装飾具などの収まる薄い箱。ガラスケースの中には骨董品、棚の隙間から見える壁には絵画が詰め込まれている。
怪盗ローザのコレクションルーム。その中に、今日盗まれたダイヤモンドも収まることになる。
棚に並んだ小箱の一つを取り出して、ローザはその中にダイヤモンドを流し込んだ。甕から甕へと水を移す「節制」のタロットカードの美しさを思い出しながら、キースは簡潔に問う。
「繋がったんですか?」
ダイヤモンドを注視していた紫紺の瞳が、一瞬だけキースを向いた。
それだけでキースの気持ちは小躍りしそうなほどに舞い上がっているのだが、顎を引いてなんとかこらえる。
「ええ」
短く答えたローザが、小箱の蓋をパタンと閉める。
「最近子会社……というよりはペーパーカンパニーを増やしていると言った方が正しいけど、そういう小細工をしているのは、やっぱり密輸品が多いからだったわ。こっちにいるマドンナ側は情報の隠し方がうまかったけど、相手の方はそうでもなかったわね」
ローザは小箱を棚に戻し、キースとサイラスに向き直って続けた。
「密輸相手はウェルスバンク。統治能力は内戦でボロボロ、ダイヤモンドをはじめとした鉱山の利権を狙って大国が政府と反政府に分かれて投資する、代理戦争みたいな状況になり始めている国よ。貿易会社マドンナが投資したのは反政府側ね」
細かい部分はそっちの方が知ってるんじゃないかしら、とローザは付け足すように問いかけたが、サイラスは表情すら変えずに沈黙をたもつ。