01.ブラッディ・ダイヤモンド

 誰でも写真を撮ることができ、監視カメラが当たり前になったこの時代。いまだにローザの姿が記録されていないのは、もはや異常だ。目撃者の証言だけが独り歩きしてうわさが誇張されていくのを、楽しんでいる余裕すらある。

「目当てのものはあった?」

 笑みを崩さずに問うローザに、キースは手に持った袋を渡す。

 中身を確かめたローザの顔がさらに笑むのを見て、キースはようやく緊張から解放される。どころか、緊張感のかけらもない、だらしない表情になりそうになるのをこらえる努力を強いられる。

 ピッキングを極めるだけでこの女の笑みを見られるのなら、犯罪者になることだって惜しくはない。

「ご苦労様。それじゃ、中に入りましょうか。ちょうどこのダイヤに関わる情報が入ってきたところなのよ」

 そう言ってローザは背後の扉を開き、キースとサイラスが後に続く。

 淡い紫を基調とした内装はどこか怪しげな雰囲気を放っていた。うっすらと壁紙に描かれたバラの柄も、日に焼けた床板も、どこか古臭さを感じさせる。唯一、要所に取り付けられた間接照明だけが真新しい。

 しばらくはローザが歩むたびに鳴るヒールの音だけが廊下に響き、誰も一言も発さない時間がすぎる。廊下を進み、階段をのぼり、さらに突き当りの部屋へたどり着くと、ようやくローザが口を開いた。

「今回の相手は、少し大きいわよ」

 大胆不敵な怪盗の口調は揺るがない。

 むしろ楽しげに言ってのけたローザは、立ち止まることなく扉を開けて部屋の中に滑り込んだ。