01.ブラッディ・ダイヤモンド
報告と共に二人の間に置かれた小さな袋を一瞥して、男は無表情のまま前に向き直る。街灯に照らされた男の右腕は、木製の銃身を持つ猟銃を抱えていた。侵入の際、障害となりかねなかった警備員を催眠弾で眠らせ、ペイント弾でカメラを潰した銃だ。
狙撃手として活動している男は、常に表情を動かさない。ただ、青年は、こういった「仕事」が終わるとき、男のまとう空気が少し柔らかくなるような気がしていた。
「ローザの鍵ともなれば、このくらいは余裕だったか? キース」
「まさか……いつだって緊張しますよ」
汗をぬぐいながら言った青年の笑顔は、少しだけひきつっていた。
「おかえりなさい」
青年・キースがワンボックスから降りると、少し高い位置から女の声が投げかけられた。
ここは、さきほど盗みを働いた偽デザイン会社よりもさらに大通りから離れた旧市街。一方通行の道が多く、窮屈な印象を与える住宅街の片隅だ。
声の主である女は、階段を数段のぼった先、キースが入ろうとしていた家の玄関前に立っていた。肩を出したワンピースはふとももの半ばまでしか覆っていない。すらりとのびた脚は編み上げのブーツが包み、上品さのある上半身とは裏腹に活動的な印象を与える。
胸までの金髪をかきあげ、不敵な笑みを浮かべる女の名はローザ。
服装さえ相応のものを着れば夜会に出ていてもおかしくはない容姿に似合わず、彼女の正体は神出鬼没な大怪盗。キースと、その後ろから降りてきた狙撃手・サイラス、走り去ったワンボックスの運転手をはじめ、五十を越える手下たちを抱える怪盗団のトップだ。