第2章
できるだけ壁で体を隠しながら、男を狙った。鳴らないように歯を食いしばり、両手で銃を構えた。六発の弾丸は込められたものの、きちんと撃てるかどうかは分からない。すべてを撃ちきれるのかどうかすら。
撃鉄をおろし、引き金を引いた。
轟音と同時、僕に大きな衝撃が叩きつけられた。二人の悲鳴が聞こえた。殺せたのだろうか──と思う間もなく、右足から力が抜けて無様に転んだ。痛いというよりも、熱い。撃たれた、と理解することもできない。悲鳴の合間に名を呼ばれた気もしたが、それも聞こえなくなった。
死ぬんだ、と思った。
鉄くさい匂いと、花火のあとのような匂いが混ざり合っていた。これが血と硝煙の匂いか、とぼんやりと考えた。男の笑い声しか聞こえない。家具の陰に隠れた惨状を、想像したくもない。
「ヘタクソだな」
粘りつくような声が鼓膜を叩いた。視線を上げると、男の表情がよく見えた。愉悦に歪んだ顔だ。狙ったはずの頭には傷一つなく、代わりに背後の壁に小さな穴が開いていた。
無性に叫びたかった。目の前の男の頭も、役立たずな自分の頭も、まとめてぶち抜いてやりたかった。
ただ、家族の中でひとり生き延びながら自ら命を絶つのは冒涜だと考える頭ぐらいは、辛うじて残っていた。
この男は、絶対に殺す。
震えることしかできなかった僕を置いて去ろうとする男に、改めて狙いを定める。リボルバーにはあと五発残っている。殺してやる。
グレッグ・ブリューに狙いを定め、引き金を引く。後頭部に咲いた赤を見とめ──
目を開く。