第2章
ふと、通り過ぎかけた父の書斎の前で、遺品の拳銃の存在を思い出した。母は嫌っていたから触ったことはない。逆上されて真っ先に撃たれてしまう──という状況が目に浮かんだが、それよりも母と妹を殺されることの方が恐ろしかった。何もできず、死んでしまうことも。
意を決し、父の書斎へ入った。ケースのダイヤル錠を合わせ、中に収まったリボルバーを手に取った。重い。鉛色の銃身に目を取られながら、見よう見まねで弾を込めた。金属同士の触れ合う、小さな音すらうるさい。震える手で六発装填し、再度、居間へ向かうために廊下に出た。
当てられるのか──余計な思考はすぐさま排除された。考えている暇はない。死ぬかもしれない。ただの勘違いだったら、どれだけいいことか。
願望は裏切られた。ようやくたどり着いたリビングには、知らない男が立っていた。
右手に自動拳銃。銃口には、映画やドラマでみる消音器がついていた。銃声を抑えるものだ。父の銃にはそんなものはついていないし、そもそもリボルバーに消音器はつけられない。銃声を消せる構造ではないからだ。
銃を持った男は、楽しそうだった。終始笑みを浮かべ、脅すように銃口を揺らしていた。母と妹の姿は家具に隠れて見えなかったが、この状況で平然としているはずもない。
母と妹は、どんな気持ちだろうか。そう思うと、銃を撃つ覚悟はあっさりと固まった。母と妹を守れ、という父の遺した言葉が、さらに背中を押した。