第2章
金色の実包と、白い紙片が目に入る。
単に「ヴァージル」という名と電話番号が書かれただけの、名刺とも呼べないメモ用紙の上に転がった弾丸。薬莢から飛び出した半球は、命を奪うために整えられた金属の一部だ。
手に取ってみると、意外と軽い。弾丸において重要な破壊力は、重さよりも速さで生み出されるのだろうか。
言いようのない存在感を放っていた底部の宝石は、いまもまだぬらぬらと輝いていた。触れても石の感覚しか返ってこないのが、むしろさらに気味悪い。血を含んだ肉の塊のように見えるのに、他の金属部分に引けを取らない硬さを持っている。
湧きあがろうとする恐怖心を飲み込み、僕は椅子に腰かける。手に収まった実包を見つめ、数秒。すでに腹はくくっている。後戻りするつもりはない。
震える右膝を掴み、実包を握りしめる。
ともすれば覚束なくなる呼吸を整えながら、僕は目を閉じた。
──七年前。
僕は妹の悲鳴を自室で聞いた。
見たくない虫でも出たのか、それともホラー映画でも見ていたのか。そのぐらいにしか思っていなかったが、いつもと調子の違う母の声も聞こえてきて、何やらただならぬ状況にあるのだろうことは少しずつ理解できた。
そう思うと、にわかに恐ろしくなった。そろりと椅子から立ち上がり、可能な限り静かに部屋の扉を開けると、忍び足で二人の声のする方向──居間へと向かった。
会話の内容が分かるようになってくると、非常事態はすぐさま現実味を増して僕に叩き込まれた。この子だけは、という母の声がした。妹のすすり泣きが聞こえた。聞いたことのない、下卑た笑い声が耳に触った。