本論三・バカと天才は紙一重だ。

 ただし、予測済み。カネミツは空中で側転運動でもするかのように、膝が命中しそうな腰部分を飛行用箒で持ち上げた。

 頭のすぐ「下」を、介入者の膝が通り過ぎていく。

 上下が逆さまになった状態で、カネミツはライフルの銃口の向かう先を、少しばかり調節して介入者の左腰を狙う。

 そこに貼りついている頭蓋骨は、口を開いてカネミツの方を向いていた。歯の隙間から漏れ出る炎は放出寸前。

 ほとんど無意識に、反射的にカネミツは装填行動を完了していた。薬室に入っていた空薬莢が弾き出され、代わりに弾丸が叩き込まれる。

 火柱の放出と火球の発砲は、ほとんど同時だった。

 両者ともに、不安定な姿勢からの攻撃行動。加えて、さきほどまでよりも強烈な爆風と熱風。肺の中まで空気に焼かれそうで、カネミツは思わず息を止めた。

 箒を掴んだまま、空中で二、三回転。

 ようやく止まったときには、本当に足が地面の方を向いているのか怪しく思うくらいに半規管が揺さぶられていた。

 実際に地面を見て上下を確認すると、風に煽られたせいか、高度が少しばかり上がっている。おおよそ十メートルほどだろうか。

 ぶは、と息を吐き出す。

 肌がヒリヒリと痛むのは、ごく軽度の火傷を負っているからだろうか。熱湯から立ちのぼる湯気に、手を当ててしまったときのような感覚。

 介入者の方を見ると、白煙と土煙に覆われて姿が見えなくなっていた。火柱に負けず、火球が着弾していれば、介入者を支配する〈ワシリーサのしるべ〉はあと一つになるはずだ。