本論三・バカと天才は紙一重だ。


     4

 介入者を照準するカネミツの右目に、汗が流れ落ちる。

 飛行と射撃の動きにも、火球と火柱の熱にも耐えた水滴が、瞼の下でとどまっている。

 視界が歪む。

「っ……くそ」

 一度ライフルを下ろし、箒での移動を続けながら乱暴に汗を拭う。束の間ではあるが目を塞ぎ、拭い終わって視界が回復した直後には、焼け焦げた制服のスラックスが目前に迫っていた。

 ──火柱で加速した介入者による回し蹴り。

 慌てて体を横に倒したカネミツの左頬を、革靴のつま先がかすめていく。勢い余って地面に激突しかけた右半身では、芝生と接触した上着がかすかに焦げた匂いを発していた。

 銃を持たない左手で箒の柄を掴んでいなければ、地面に激突していただろう。

「っ殺す気か!」

 仮にも「防衛」機構だろうが! という心の叫びも意味を持たない。暴走状態の防衛機構から切り離された危険分子に対して、あまりにも無力すぎる。

 すぐさま思考を切り替え、カネミツは介入者の無防備な左半身に向けてライフルを構える。

 狙うは左腰に貼りついた〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュア。

 だったのだが、相手が無防備な姿勢を見せたのは一瞬だった。

 介入者の右肩から、黒炎が噴き出される。

 ジェットエンジンのように扱われた火柱は、介入者の右腕の動きを加速。握りしめられた拳がカネミツを狙う。

 両腕が塞がれた状態では、急回避はままならない。人外の、ためらいない速度で繰り出される拳を防ぐ術もない。となれば、

 ──死ぬなよ!

 一方的に、声にすら出さずに願いながら、カネミツは照準をずらし、介入者の右肩を狙う。