本論三・バカと天才は紙一重だ。
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介入者を照準するカネミツの右目に、汗が流れ落ちる。
飛行と射撃の動きにも、火球と火柱の熱にも耐えた水滴が、瞼の下でとどまっている。
視界が歪む。
「っ……くそ」
一度ライフルを下ろし、箒での移動を続けながら乱暴に汗を拭う。束の間ではあるが目を塞ぎ、拭い終わって視界が回復した直後には、焼け焦げた制服のスラックスが目前に迫っていた。
──火柱で加速した介入者による回し蹴り。
慌てて体を横に倒したカネミツの左頬を、革靴のつま先がかすめていく。勢い余って地面に激突しかけた右半身では、芝生と接触した上着がかすかに焦げた匂いを発していた。
銃を持たない左手で箒の柄を掴んでいなければ、地面に激突していただろう。
「っ殺す気か!」
仮にも「防衛」機構だろうが! という心の叫びも意味を持たない。暴走状態の防衛機構から切り離された危険分子に対して、あまりにも無力すぎる。
すぐさま思考を切り替え、カネミツは介入者の無防備な左半身に向けてライフルを構える。
狙うは左腰に貼りついた〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュア。
だったのだが、相手が無防備な姿勢を見せたのは一瞬だった。
介入者の右肩から、黒炎が噴き出される。
ジェットエンジンのように扱われた火柱は、介入者の右腕の動きを加速。握りしめられた拳がカネミツを狙う。
両腕が塞がれた状態では、急回避はままならない。人外の、ためらいない速度で繰り出される拳を防ぐ術もない。となれば、
──死ぬなよ!
一方的に、声にすら出さずに願いながら、カネミツは照準をずらし、介入者の右肩を狙う。