本論三・バカと天才は紙一重だ。
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レースも終盤に差し掛かったな、とオキツグ・キラは黙考する。
魔導具商店街という難所を抜け、同乗者を降ろした今、彼に追いつけるものはいない。カネミツと別れて以降も後ろを気にかける必要がないのは、それまでの走りで〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアたちの最高速度を把握済みだからだ。
今まで追いつけなかったものたちが、本来の用途──すなわち一人乗り──で走るライジング・フリーに追いつける道理はない。
実際、黒炎を孕んだ頭蓋骨たちははるか後方に置き去りにされていた。
代わりに、オキツグの目前には地下都市ワシリーサを囲む内壁が迫っている。
太陽が役割を果たしていないため、本来の薄青い色はほとんど灰色に見える。
巨大なドーム状になっているとはいえ、地上付近では傾斜などない。灰色の壁を前にして、けれどもオキツグはペダルをこぐ足を止めない。止める必要も理由もない。
どのような悪路であっても、ライジング・フリーの最速は揺らいではならないのだから。
「ライジング・フリー、システム・シフト!」
同乗者がいなくとも、掛け声は高らかに。
「アルティメット・キングス・ロード! ──俺たちの通る道が、王の道だ!!」
壁への衝突の数瞬前、オキツグは一度ペダルをこぐ足を止めて上体ごと前輪を持ちあげた。
超短距離のウィリーを慣性だけで実行し、前輪がワシリーサの内壁に当たった瞬間再びアクセル。ライジング・フリーはそのまま空が描かれた壁を上に向かって駆け抜ける。
壁も天井も一体となったドーム状の壁は、ライジング・フリーに刻まれた象徴により、オキツグの走る道と化した。