第三章
二人で会おう、と言われたとき、告白だったら受けよう、と思ったことだって覚えている。彼の顔をろくに覚えていなかったのは、自信なさげな挙動が目立つとはいえ、彼を見るのが少しばかり気恥ずかしかったからなのだろう。友達だから、と割り切っていたが、思春期に含まれる時期に趣味の合う異性と出会ったのだから、どこかで意識していてもおかしくはない。
けれど、見事に裏切られてしまった。私が一方的に思っていただけ、と言えばそれまでだが、それはそれで思わせぶりな行動に腹が立つ。代わりに渡された本が『北欧神話物語』だったから、一気に力が抜けて感情が爆発することはなかった。それだけが救いだった。
「じゃ、そっちはどうなの? 彼女とか」
「え、いないよ。できたとしても、俺、うまく付きあえる気がしないし……」
「ふうん」
自覚はあるのか。
「最近やっと仕事に余裕できたくらいで、ずっとバタバタしてたからね……」
あっさりと、はやくも近況報告が始まってしまった。半分ほど聞き流しながら、私は内心で息をつく。
告白されたからといって、今更イエスと返せるほど太い神経は持っていない。けれど、ここまでいろいろな条件が揃っていながら、どうして話が外れていってしまうのだろうか。
期待はしない、なにを考えているのか疑問に思わない。彼と付き合ううえで、そうした方が楽なのだということはとっくに分かっている。
当たり障りのない、平凡な会話だけが行きかう。日が沈みかける、寒くなっていく時間帯までには、別れて家に帰りたいなぁ、とまで思えてくる。