第二章
反対側の線路の向こう側には、閉ざされたホームドアが見える。東京駅の外観はテレビなんかでしか見たことがないが、ここから見える風景にはレトロな屋根の先端すら見当たらない。狭苦しい空に見えるのは、どれも同じようなビルだけだ。
景色でも見ていれば眠くなるだろうか、と考えている内に、発車のアナウンスがなった。軽い電子音のあと、新幹線が動き出す。
ゆるい圧が体にかかった。昼前の日差しが窓から差し込んでくる。ちょうどよく満たされた腹も、暖かく調節された気温も、かすかな揺れも、眠気を誘う条件には申し分ないはずだ。
それなのに、私の瞼がおりる気配は微塵もなかった。ぼんやりと外を見つめていると、高層ビルの間に電車の乗客へ向けたと思しき看板広告が掲げられているのが目に入ってくる。ちらつく原色と、読めそうで読めない速度で通りすぎていく活字が、なぜだか妙に私の脳を覚醒させていた。
忌々しかった。ついこの間まで、容赦のない課題の山とバイトのシフトに頭を抱え、電車の中で立ったまま寝ているような生活を送っていたというのに、こんな恵まれた環境で眠ることができないなんて。
なにげなく隣を見てみると、男性は前の座席から簡易テーブルをさげてノートパソコンを開いていた。テレビCMでも見たことのある、タブレットに薄いキーボードを繋げるやつだ。私のやぼったい大学推奨のノートパソコンとは比べ物にならない。そもそもノート型なのに持ち運ばれていないぐらい重いのだから。