第一章

 音源はスマートフォンだ。まさか、とよぎった期待を、私は努めて意識の外へ追いやる。彼からメールの返事なんて、ずっと来ていない。大学からの連絡メールか、どこかの店で登録したメールマガジンか、タイミングよく用事のできた大学の友人からだろう。

 スマートフォンには、二〇時二五分を示すデジタル時計の下に、メールの着信を知らせるポップアップが表示されている。

 予想は裏切られた。期待は裏切られなかった。

 けれど、訳もなくいらいらする。USBコードを抜いたスマートフォンを部屋の隅に畳んだ布団に投げつけ、一時間ほど放置してから返事を書こうと心に決めた。

 なにが「分かった。日付教えてくれれば合わせるよ」だ。忙しいんじゃなかったのか。今までメールの返事がこなかったのは、なんだったんだ。

 fromのあとに続いた彼の名が少しばかり新鮮だったのが、さらに気に食わなかった。