第一章

 やりたくないことがあると部屋の掃除を始めてしまうのは、私の悪い癖だった。

 学校のテスト勉強しかり、終わりそうにない課題しかり。家族や友人と喧嘩したときのような、嫌なことがあったときにもついやってしまう。

 とはいえ、自分でも少し不思議だった。二年ぶりに実家に帰ることが、それほど私にとって精神的な負担になっているのだろうか、と。

 その原因は、掃除中に見つかった。

 めったに開かない引き出しにしまいこまれた、紺色のビニール袋だ。平べったいつくりからして書店で使われるもので、プリントされた店名は上京する前よく目にしていたそれだった。

 几帳面に余った部分を折りこんで、さらにテープでとめられた袋を、わざわざ開けるまでもない。

 この中に入っている本は、借り物だ。

 すっかり忘れていた。けれど、見てしまえば思い出すのは簡単だった。思い出してしまえば、実家に──というよりは、地元に帰ることへの気の重さにも、納得がいった。

 ほとんど二年ぶりに、私は紺色のビニール袋を開封した。テープの粘着力はとっくに弱っていて、少し触れただけであっさりとはがれてしまう。折りあとのついた袋から出てきたのは、一冊のハードカバーだった。

 古めかしい、それこそ世界史の教科書にでも載っていそうな画風の絵が描かれている割に、つやつやした滑らかなカバーがかかっている本だ。