第一章 暗中に泥む

 しかしこんな時でも人は区切りというものを探す。
 区切りは重要だ。なぜならそれは、別のことに移行するための切欠になるからである。
 継ぎ目のない間延びした空間は始まりと終わりの境を曖昧にし、思考を鈍らせ最後には思考するという行動そのものの自由を奪い取る。

「まあでも、看守が飯を持ってくる時があるから時間経過の指標が全くないってわけでもねえぞ」
「ほう」
「それも定期的にだ」

 なぜそんな事が分かる、とイドが問うとローヤは床だか壁を小突きながら言った。

「俺があと二百三十八回ノックしたら看守が飯を持ってくる」

 それからきっちり二百三十八回のノックの後、看守は両手に皿を乗せて現れた。
 ロールパンが二個と萎びた茹で人参、ソーセージが乗った皿を鉄格子の開閉部下にある隙間から中へ押入れ、食えと平坦に告げて看守は通路を戻って行く。去り際、イドは見えなくなって行く背中へありったけの罵詈雑言を放ったが看守は見向きもせず牢獄を後にしたようだった。
 配給されたパンでも齧っているのだろうか。何かを咀嚼しながらローヤは言った。

「な。俺の言った通りだろ」
 隣人の顔は知らないし見たこともないが恐らくしたり顔でもしているのだろう。イドが聞く限りローヤの声は得意気だった。

「飯が食えるって思うとテンション上がるよな」

 そうだろうかと思いながらもイドは沈黙して次の声を待つ。

「俺はアンタが来るまで一人だったんだ。それはそれは暇でな。こんな空間だし? 娯楽は無えし? 飯が出るタイミングを調べたくなったんだ。で、飯が出た直後から壁とか床とかその辺をなるべく一定間隔で叩くのを続けてみた。そしたら飯は大体等間隔で出されてるのが分かったのよ」
「…………」
「リズム取ってる内に叩かなくてもノックの打数が分かるようになっちまったけどな」
「………………おおう」

 暇を持て余してしまうのは分かるが、発想が斜め上過ぎて理解が追い付かない。追い付かないし、まず食事ごときでそこまで追求してやろうという気概が起きない。
 とは言うものの、隣人の話を聞いてイドの中で起こった仮説が一つある。
 それは、投獄した人間たちがこちらを飢餓させた上で殺すつもりは無さそうだという事だ。
 先住民ローヤから得た情報によると食事は定期的に出されているらしい。今出されている食事だけでは判断し切れない部分も多いが、これから定期的に運ばれてくるであろう食事の種類にもしバリエーションがあって、かつ出される順番に量の違いがあった場合、これはこちらを殺すつもりが無い上でまた違った目的が見えてくる。
 しかしその違った目的の正誤を確定付けるには足らない事がまだいくつかある。
 イドは隣へ向かって問う。