X 憎しみの火に焼かれた変容の果て

「神の裁きを、受けろ……悪魔」

 嫌悪の視線が、真下から十三番へ向けられる。

 それになんら感情を動かされないのは、体温の低下とともに感情まで死に近づいてしまったからだろうか。十三番はむしろ笑みのような吐息すらこぼして、白服に応える。

「俺は悪魔じゃない」

 周りから聞こえるのは、掠れた息とうめき声。

 血の川が流れ、人の肉が燃える匂いが風に乗って流れてくる。

 知覚できる全てのものが、死へと繋がっていく。揺れる体を動かしているのは、十三番自身の意思なのか──それとも、象徴としての死を求める魔術なのか。

「死神だ」

 反論の余地すら与えず、十三番は大鎌を振り下ろす。

 切断された白服の頭部は、床を転がって断面から血液をまき散らした。踏みつけた足からは、死体の微弱な痙攣が感じ取れる。

 長く息を吐いた十三番の正面で、部屋の扉が開いた。

 視線を上げると、赤い長衣の足元が日に照らされている。暗い廊下に立っていたニコラは、血で汚れるのもいとわずに部屋を進み、十三番へと近づいてきた。

「終わった、ようですね」

 含みを持たせるような口調で、ニコラが言う。

 終わった、と言えば、その通りだった。

 神殿へ来た白服は全て片づけた。【死神】の魔術の習得を終えた。

 そしてなにより──夢にすら現れる因縁の相手を殺した。

 軽く頷いて、十三番は死体から足を下ろす。

 ただそれだけの動作をするのに、泥の中を進むような抵抗感があった。同時に、揺れる体をとどめられなくなっている。視野が狭まり、色が消えていく。

 気付いたときには、魔術すら維持できなくなっていた。白骨の腕が消え、大鎌が落ちる。

 傾いた体を支えたのはニコラだった。

「お疲れさまです、十三番」

 ねぎらう声に、言葉を返す余裕すらない。

「後は私にお任せください。──よい夢を」

 急速に闇にのまれていく意識に既視感を覚えながら、十三番は意識を手放した。