U 死の呼び声
「ここは……まさか、伝承の魔女の工房か」
現れた白服は五人。その内、中央に立つ長い金髪の女が誰に言うでもなく囁いた。
女だけが好きなように周囲を観察し、その両脇を固める四人は青年を注視している。
もっとも、体力的にも精神的にも、青年が彼女らに危害を加えるなどほとんど不可能だった。それを自分で理解しているからこそ、青年はその場から動けない。
動く余裕を持たせるつもりなどない、とでも言うように、女はさらに状況を急転させる。
「随分といいところに案内してくれたものだが……空気が悪いな」
言いざま、女は顔の横に手を上げる。
それを合図として、五人の声が重なった。
「〈我らの神は息吹によって我々に命を吹き込み、悪しきものを取りはらわれる〉!」
白服たちの口から発されたのは、歌だ。
五人によって紡がれた旋律は、実体を持って部屋全体を揺るがした。あれほど変化を拒絶し続けていたのが嘘のように、部屋の中の空気は突風となって荒れ狂う。
風に叩きつけられ、青年の体はたやすく浮かされる。
床に倒れ、台座に風が阻まれる安全地帯に滑り込めたのは幸運だった。そのまま壁に押しつけられていれば、圧殺か、あるいは窒息死に陥っていてもおかしくはない。
荒れ狂う風は、いまだ音をたてて部屋の中を駆け巡っている。
青年は咳き込みながら、台座より低い姿勢を保って周囲へ目を向ける。防壁となるのは膝より少し高い程度の円柱。その上に鎮座するものとカードは、まるで透明の壁に囲まれているかのように静けさを保っている。
次に、視線は白服の集団へ。
金髪の女は、ちょうど顔の前に落ちてきた髪を背中へ払うところだった。
どうやら風は彼女たちの意のままに操られているようで、白い長衣が乱れる様子もない。
空気の支配自体ならば、青年の理解の範囲内にある。
問題はその方法だ。
強制的に風の流れが生み出され、たやすくなった呼吸の隙間で呟く。
「魔術じゃない……のか」
おそらくは、技術の根底にある思想が違う──と、さして多くもない知識を総動員して青年は考察する。
しかし女の反応は激烈だった。
「無礼者が」
怒りと軽蔑と殺意を混ぜた視線が、忌々しげに青年へ向けられる。
再び女の右手が上がり、後ろに控える四人が斉唱。
「〈神よ、その尊き足元に〉」
「下賤な言葉で神の御業を語るなよ、覚えておけ──」
女だけが、宣告を紡ぐ。