第七章
満月を見上げていると、目の前を黒い影が横切っていった。
メインローターの起こす風が、ものすごい勢いで僕の髪や服を暴れさせる。ボディーに描かれているのは、マイナーテレビ局のロゴ。スライド式の扉を開いて、シートベルトで体を固定したカメラマンが漆黒をこちらに向けている。それは、言うまでもなく、確認するまでもなくカメラで、やっぱりレンズと目が合ったように錯覚する。
近くに大型モニターはないけれど、リポーターの言葉はだいたい予測できる──「都市伝説・ナイトダイバーが我々の前に姿を現しました」だろう。定型文。決まり文句。視聴者がそれに飽きていることに、彼らが気付くときは来るのだろうか?
まあ、そんなことはどうでもいい。元々、僕は彼らが変われないことについて、どうこう言える立場にいない。なにせ、ヒトからヒトならざるモノに形を変えたというのに、中身だけは変わっていないんだから。
それは、他人から見れば停滞に見えるかもしれないけれど。でも僕はしっかりと進めている。と思う。
ナイトダイバー。ナイト・ハンター。呼び名はなんだっていい。いくつあったっていい。でも、その名で呼ばれて、僕が振り返るかどうかは、また別の話、僕の勝手だ。だから、ヘリコプターで僕を追いかける連中が僕を呼ぼうと、夜の闇に紛れて人を狩るモノが僕を呼ぼうと、僕はおそらく、振り返らない。だってそれは、僕の名前じゃあないんだから。