第六章
それこそ、声の高さが一オクターブ上がったのではないかと錯覚するほど、楽しげに言い放った。ナイトダイバーに向かい、オフィスを滑るように移動する。手を伸ばす。
対して、
「お断り、だっ!」
ナイトダイバーは体を支えるために使っていたデスクチェアを、スメラギに向かって投げつけた。軋む体を無視して包帯を地面から抜き、周囲の椅子に巻きつけ、持ち上げる。
スメラギは、触れたものの魂を変質させることによって、ナイトダイバーを作りだした。だから、「造りなおす」という行為にも「接触」が絶対条件になる。と、ナイトダイバーは推測する。
そして、彼の包帯や服は、彼自身の魂で組成されている。触れられれば最後。『失敗作』として霧散するか、『成功作』としてスメラギの支配下に置かれるかの二択だ。
無論、どちらの結末も受け入れるつもりはない。足に力を入れて、ナイトダイバーは第二波を投擲。
最初に投げた椅子は悠々と避けられた。二波を見たスメラギが、少しだけ目を見開いて、直後には笑みを浮かべる。
第二波も容易に避けるであろうことを予測して、ナイトダイバーは影に潜りこみ、ファイル類が詰め込まれた棚の上に浮上する。蛇の機動力をもって全ての椅子を掻い潜ったスメラギの頭上、転倒防止用のストッパーを包帯で切断。天井に手をついて棚を蹴り倒す。
再度見開かれた金瞳と目が合う。かなりの重量を有する棚は、もう止まらない。緩やかな落下に逆らわず、ナイトダイバーは棚の上部が直撃したデスクの向こう側に着地。高い場所にたまっていた埃が撒き散らされる。