第六章

 数秒間の思考停止。過去に体を縛られたナイトダイバーは、決定的に、致命的に隙だらけだった。

 止まったナイトダイバーに、蛇の尾が横から叩きつけられる。防御の体勢も取れず、くの字に曲がった体がビルの裏口を突き破った。設置されたデスクに当たってようやく停止。書類が落ちて床に散らばる。

「覚えていたようだね、二年前の痛みを」

 破壊された扉の上を通って、スメラギは笑みを浮かべる。

「いや、忘れるはずもないか。なにせ、生きたまま肉体が崩壊していったのだから。想像を絶する痛みだったろう」

「……肉体を持ったこともないお前が言っても、説得力がないな」

 デスクチェアの背もたれに手をかけて、ナイトダイバーが立ち上がる。気を抜けば膝から崩れ落ちそうだ。体の各所から包帯を伸ばし、地面に差して杖代わりにする。

「確かに、肉体を持たず魂のみで存在することにも、デメリットはある、か。髪もウロコも服も、自らの体の一部となる。髪を少し切られただけで、体の一部を失うのと同義になるのだから」

 そう言ってスメラギは短くなった髪に触れ、

「なかなか痛かったよ、ナイト・ハンター。相変わらず聞き分けの悪い子だ。そんな子に生んだ覚えはないよ」

「じゃあ、やっぱり僕も失敗作だったんじゃないのか?」

「……なるほど。それならば」

 縦に割れた瞳孔が広がる。光源のないオフィス内で、不気味に光る金の瞳。

 口の端を吊り上げて、スメラギは楽しげに。

「造りなおす必要があるね」