第六章

 道路を舗装するアスファルトが粉砕した。

 影からの浮上と同時に振り下ろされた、ナイトダイバーの踵が地面に突き刺さっている。その影響で生じた轟音と小規模な揺れは、表通りを走るトラックに掻き消された。

 右足首までを道路にうずめたまま、ナイトダイバーは姿勢を低くする。直後に頭頂部を掠めていくのは、ウロコに覆われたスメラギの手。ちぎれた数本の黒髪が宙を舞い、ナイトダイバーが眉を寄せる。

 その様を見下ろして、スメラギは唇を歪めて笑みを浮かべ、

「痛みを感じるかい?」

 一音一音、全てに意味を含ませるかのように、意味深に、問う。

 今度こそ、ナイトダイバーの肩が跳ねた。喚起された過去の断片が脳裏に瞬く。フラッシュバック。それは、ぞっとするほど鮮明に。


   ──『キミは二十二番目の被験者だよ』──

 ──暗闇での邂逅。ヒトと蛇の人外。体は恐怖で動かない。──

──『やめ……』──
   ──『成功させる。今度こそ、今回こそ!』──

 ──蛇のように絡み付く腕から逃れる術は、ない。──

──『う、あぁぁああああああ!!』──
   ──『まだ、痛みを感じるかい?』──

 ──体が崩壊する。器を突き破って魂が外に放たれる。──

──『ッ……!』──

 ──細い路地を、電球が照らし出す。街灯の下で蛇の体が這う。──

   ──『ようやくこの時が……!!』──

 ──その時にはすでに、彼はヒトではなくなっていた。──
──別の何かに、存在を変えていた。──

   ──『おめでとう』──
──『キミが初めての成功例だ』──