第六章

 いまだに残るダメージを振り払いながら、スメラギのいた場所を振り返る。壁に接していた棚の背が露わに。少し光があれば、日焼けしていない壁紙を見ることができただろう。散らばった書類、破壊されたパソコンのモニターが痛々しい。ひしゃげたデスクの引き出しは、もう二度と開かないだろう。

 舞い上がった埃が落ち着き始めた頃、ナイトダイバーは腰を落とした。重心を低くした臨戦態勢。視線の先で棚の背が持ち上がる。包帯の下で眉をよせ、近くのデスクチェアに手を伸ばす。目を向けた先では棚の上昇が止まらない。下から覗くのは金の瞳、体を覆うウロコ、蛇の尾。

「やっぱりキミは、失敗作だったのかもしれない」

 片手でアルミ製の棚を持ち上げ、スメラギはむしろ淡々と述べる。裂けた額から流れ出た赤が、吊り上がった唇を横切って顎に伝う。

「ナイト・ハンター。改良の余地がありそうだね。生み出した者に対してこんなに暴力的になるとは、いや、最初から分かっていたことではあったか。ナイト・ハンター。ナイト・ダイバーを狩るもの。その名を付けたのは他でもない、私だ。そう考えると、やはり──」

 独り言のように。自らの考えを淡々と、坦々と、並べ、連ね、重ねていく。ただそれだけの言葉。そこに聞き手が介入する余地はない。たとえ当事者であったとしても。

 ぐしゃり、と薄い棚板が握りつぶされた。実用性のみを追求した武骨な書棚が掲げられ、振りかざされ、

「その本質を変える必要が、ある」

 軽々と、投げ飛ばされる。

 防御の体勢をとる暇もない。包帯を使えば決定的な隙になる。