第五章

 刀を思わせる鋭さで、ナイトダイバーの首元から生え、優菜の頭上を通り、スメラギの頬を裂いたのは、黒い包帯。

「お前の演説を聞くつもりは、ない!」

 断言した声は、半ば叫ぶように。

 言葉と共に、黒に覆われた左腕が奔る。

        ──力尽きた街灯。細い路地は闇に包まれた。

 同時、袖口から伸びた包帯が鞭のように振り抜かれる。

        ──闇の中、わずかに光る金の瞳は下へ。

 黒は風を裂き、紫の髪を斬り、役に立たない街灯を両断。

        ──蛇の体がアスファルトを這う。

 ナイトダイバーから距離を取ったスメラギは、優菜の手を意図せず解放していた。呆気なく切断された街灯が倒れ──金属とコンクリートがぶつかり合って鳴り響く高音。狭い路地では倒れ切ることができず、向かいの建物にぶつかって停止した。細かく砕けたガラスが道路に散らばる。

 左腕から放った包帯をビルの外壁に突き刺したまま、ナトダイバーは優菜を右手で引き寄せて背にかばう。視線はスメラギに向けたまま、

「……僕の後ろにいてくれ」

 一方的に告げて、手を離す。直後、首元と左の袖から伸びていた包帯は、意志を持っているかのように元の場所へと戻っていった。一度まばたきしてしまえば、どの包帯が放たれていたのかも見分けがつかない。

 優菜は、ナイトダイバーを呼び止めようとして──言葉が見つからなかった。喉まで出かかった「イトダくん」という呼び名を、無意識に飲み込んだ。呼び慣れた名で、彼を呼べる気がしない。