第五章

 返答は、ない。

 切れかかった電球が、再度、路地に暗闇を生み出した。

 フィラメントの焼ける音。最後の足掻きとばかりに街灯が光を放ち、

「僕は」

 瞬間生じた闇を潜ってきたナイトダイバーが、優菜の肩を掴む。

 数歩の距離ならば、影に潜って浮上するのに一秒とかからない。

 都市伝説に挟まれた少女の頭上で、黒と金の目が睨み合った。

「お前の演説を黙って聞き続けるつもりなんてない」

「残念だな。私は一つの提案をしてあげようと思っていたというのに」

 大仰にため息をついて、スメラギは肩をすくめる。

「私はね、この娘を──橋越優菜を、キミと同じ存在にしてあげようと思っていたのだよ」

 漆黒の瞳が見開かれる。

 対して黄金の瞳は細められた。

「素晴らしいだろう? 肉体という枷からの解放。キミは本当の同士を見つけるわけだ……ヒトならざるものを、ね。あぁ、失敗については心配しなくていい。キミ以来、数回の失敗は繰り返しているが……橋越優菜は私たちのような魂のみの存在を感知する目も持っているからね。きっと良い結果になる」

 スメラギの言葉が終わる。その後、ぞんっと空気の裂ける音が、路地の空気を震わせた。アスファルトの上に赤が一滴、二滴。

 優菜の首を掴んでいたスメラギの手が、彼自身の頬に触れる。一筋走った赤い線から伝い落ちる滴に。吊り上がった口の端から、先が割れた蛇のような舌が現れた。赤のついた指先を、血液が付着したウロコを、舌が這う。

 ナイトダイバーの表情は変わらない。

「言ったはずだ──」

 漆黒で包まれた首元。その鎖骨と思しき場所から、黒は伸びていた。