第五章

 そんな廃れた裏通りのせいか、そこを照らす街灯は、LEDへの変更すら行われていなかった。固定された光源は切れかかった電球しかなく、不安定。大通りを走る車が放つ光の方が、確実に視界を確保してくれる程だ。

 表通りの華々しさを、引き立たせるための場所のような、言ってしまえば掃き溜め。細すぎる路地が使われる可能性は極めて低いため、整備が後回しになるのは仕方のないことではあるが。

「そう、あの日の彼は、不本意だがこの道を使っていた。たぶん、用事か、待ち合わせか。彼を急がせる何かがあったのだろうね。でなければ、こんな道は通るまい」

 半ば独白のように。楽しかった思い出を振り返っているかのように、スメラギは語る。演技がかった丁寧な口調こそそのままだが、声音の中にどこか楽しげな色が入っていることを、優菜はなんとなく感じていた。

 同時、わずかな違和感が彼女の胸の中で湧きあがった。ナイトダイバー。都市伝説として語られるモノ。彼と話すことは多くあっても、その起源について優菜は知らない。元々、彼女の目は生物というカテゴリに属さない、少し特殊な存在も捉えることができる。もっと簡単に言えば、彼女には霊感がある。「幽霊」や「変わったいきもの」なら、幼い頃から見続けていた。その「変わったいきもの」が今は「ナイトハンター」と呼ばれ、ナイトダイバーはその中で唯一他の人にも見えて、かつコミュニケーションも取れるだけの存在だったのだ。