第四章

 辺りはすっかり暗くなっている。優菜が帰宅していても、おかしくはない時間帯だ。不安を抱えたまま、黒の包帯で表情を隠した都市伝説は、熊のナイトハンターの体が作り出す影へ潜り──優菜の部屋に、浮上する。

 ビタミンカラーのインテリアが目に入った。紺の制服をまとった少女は、いない。まだ帰っていないのか、とナイトダイバーが一息つこうとした、その瞬間に、彼は見た。

 机の上。

 パソコンのモニターの前に置かれた、蝶の形をしたオレンジの髪留めを。

 おかしい、とナイトダイバーは視線をわずかにずらして、ガラスケースに目を向ける。仕切られた中身の、空いているスペースは一つだけだ。新しいものが増えた様子もない。

 オレンジのヘアアクセサリーは、優菜のチャームポイントでもあった。外に出る時も、部屋にいる時も、外す必要がなければ外さない。だから、ケースから出したのに朝付け忘れるという線も、薄い。

 加えて、部屋を見回した限り、学生鞄はどこにもなかった。机の脇に備え付けられたフックにも、真っ先に投げそうなベッドの上にも、もちろんデスクチェアの上にもない。

 嫌な予感は、そのまま確信になった。長い袖の中で、拳を握りしめる。

「スメラギ……!」

 黒い包帯の下、食いしばられた歯の隙間から。彼が追い求める人外の、ナイトハンターの名が、こぼれた。