第四章
「……違う」
足元に目を向けながら、ナイトダイバーはぽつりと声を落とした。
アスファルトで舗装された地面に横たわっているのは、熊のような体躯を持つナイトハンターだ。下顎からはみ出した猪のような牙が、普通の熊ではないことを物語っている。
だが、それはナイトダイバーが探していたモノではなかった。目を細めて、熊に視線を向ける。
場所を間違えたわけではないはずだ。間違えるはずもない。
通常、ナイトハンターは他の生物同様に、縄張りというものを持つ。それは、各々が自らの獲物を確保するための狩場であり、互いに警戒心や敵対心を刺激し合わないためのパーソナルスペースでもある。だから、滅多なことがなければナイトハンターは自らの縄張りから移動しないし、わざわざ縄張りを広げようともしない。
その性質から考えると、目撃された場所に行けば遭遇できる確率は上がる。はずだった。だがしかし、実際に情報通りの場所にいたのは紫髪の人外ではなく、大きな牙を持つ熊だ。ナイトダイバーは思考を巡らせる。
何かを見落としているのではないだろうか。あるいは。
「罠、か?」
口に出した途端に、ナイトダイバーの背筋を冷たいものが走った。ありえない、とは言い切れない。むしろ、紫髪の人外の性格をよく知っているナイトダイバーだからこそ、否定できない。
たとえば、わざわざ人に目撃されるような行動を取っていたとすれば。
たとえば、他のナイトハンターの縄張りでそうした行動を取っていたら。
たとえば、ナイトハンターの目撃情報を人がまとめていると知っていたら。