第三章
優菜の喉から出かかった声は、紫のウロコに覆われた手が口を塞いで封じてしまった。逃れようとしても、優菜の力では振り払えそうにない。
「聞き分けの良い子が好きだよ、私は」
身勝手なことを言って、人外は笑う。金の瞳の瞳孔は縦に割れ、爬虫類の不気味さで優菜を捉えていた。生物的な恐怖心を煽る目を持っていながら、人外の相貌は作り物のような美しさを備えている。その後ろ、頭の向こうで揺れるのは、太い蛇の尾。片手で顔を固定された優菜には見えないが、ウロコで覆われた人外の下半身は、蛇のそれと同じだった。
あいつだ、と優菜は思う。昨日、掲示板で語られていた、あいつだ。しかし、何もできない。彼女はナイトダイバーに何かを知らせる術を持たない。持っていたとして、目の前の存在がそれを許すとは思えない。
それ以前に。
もし仮に、ナイトダイバーとコンタクトが取れるとして、彼が来ればこの状況を打破することはできるのだろうか?
「申し訳ないが、君には餌になってもらいたい」
餌。その言葉に優菜の肩が跳ねる。人をさらったナイトハンターが、人をどうするのかは、いまだに分かっていない。
食われるかもしれない。予測が少女の体を縛る。しかしその恐怖は、次の一言で全く別のものに変更された。
美しくも不気味な顔が、歪んで、ひしゃげて、笑みを作る。
「ナイトダイバーを釣るための、餌にね」
優菜の口を押さえた方とは逆の手で、人外は優菜の頭に手を伸ばし──