第二章
「……都市伝説?」
首をかしげながら言う少女に呆れつつも、ナイトダイバーはいつの間にか苛立ちが消えていることに気づいていた。マスコミのヘリに追われている最中は、どうしても消えなかったうなじの緊張が解けている。
やはり、自分はここだと安心できるのか、とナイトダイバーが自己分析していると、
「都市伝説といえば」
優菜が思い出したように話題を展開させた。
「ナイトハンターっていうのが、最近のはやりだね」
黒の包帯の下、見えない口が息をのんだ。数瞬空いた間を埋めるように、のんだ息を言葉と同時に吐き出す。
「僕の偽者でも出てきた?」
「イトダくんよりも物騒だよ」
くるりと椅子ごと体をまわして、優菜は机上のパソコンを操作する。その動作に合わせて、キャラメルブラウンの髪が弧を描いた。
キーボードをタイプする指が走る。ナイトダイバーは少女の背後に近づき、少女が検索を終了させるまで、机に飾られたコレクションに目を向ける。細かく仕切られたガラスケースの中に、様々なヘアアクセサリーが並んでいる。売り場の一角をそのまま持ってきたような統一感。優菜の趣味で集められ、愛用されているオレンジ色の髪留めたちだ。一つだけスペースが空いているのは、今使われている蝶のバレッタが入る場所なのだろう。
明るい色彩からパソコンのモニターに目を移せば、黒ベースの怪しげなサイトが映っていた。数回リンクを移動し、たどり着いた先には、優菜の言った「ナイトハンター」の文字。どす黒い赤のフォントが不気味さを煽る。
「最近、行方不明者が続出してるってゆーの、知ってる?」