第二章

 都市伝説・ナイトダイバー。その名の内の三文字を取って呼ぶ少女の名は、優菜(ゆうな)。胸まで伸びた髪はキャラメルブラウン。前髪が邪魔にならないように、蝶を模ったオレンジの髪留めでまとめている。着替えるのを面倒くさがるため、家に戻ってきても紺の制服を着たままだ。夕食前の入浴を済ませるまで部屋着、というか寝間着にはならない。

 会うたびに交わしているやり取りに、ナイトダイバーがため息をつく。何度も繰り返された会話だが、優菜の態度は一貫して変わることがない。だから折れるのはいつもナイトダイバーで、その様子を見て優菜が満足げに微笑むのが、二人が顔を合わせた時のパターンになっている。

「それにしても、大変だったね」

「なにが?」

「テレビ。久々に出たねー、都市伝説特集。夜のビル街を走る、謎の人影の正体とは!? って」

 ナレーションの声を真似ているのか、優菜の口調は途中から仰々しく大袈裟になっていた。再度、包帯の下でナイトダイバーは嘆息する。

 ブームというのは面倒なもので、一度火がついてしまえばあらゆるメディアが一つの物事についての最新情報を取り入れようとする。実際、一年前にナイトダイバーの存在がテレビの流行になった際は、空を飛び交う全てのヘリに怯えるはめになった。

 彼らマスコミの熱がある程度冷めた最近では、ナイトダイバーも比較的自由に街を走り回れるようになっていたのだが。

「ブームの再燃にしては間隔が短いし……視聴率が稼げなくなったかな」

「イトダくんから『視聴率』とかいう言葉が出てくると、なんかヘンな感じ」

「僕を何だと思ってるんだ、優菜は」