Code1:KOLGA

 抑揚のない、若い女の声だった。生きている人間が発しているにも関わらず、機械音声からイントネーションの違和を排除した程度にしか聞こえない平坦な口調を維持したまま、オペレーターは語る。

『戦闘の許可が下りました。生還のため、最大限の努力をするようにとの通知です』

「ずいぶん早いな。さっきだろ、報告したの」

『それだけ貴重だということです。コールガも、貴方も』

「そこは貴重じゃなくて大切って言ってほしかったな」

 冗談のまじったぼやきは黙殺。

『戦闘を開始してください』

 冷やかに告げたオペレーターに対し、ブラッドはもう一度ため息をついて応答。足の間から伸びる操縦桿を掴む。

 しばし目を閉じ、その後開かれた瞳に冗談や笑みの色はない。

「了解。戦闘開始」

 通達を繰り返す。と同時、ブラッドの声にコールガのAIが応えた。


   コマンドを確認_
   待機モードを解除_
   これより戦闘を開始します_


 電子音声が告げると同時、コックピット内部は一変した。

 モニタに表示されるのは、コールガの本体から見える全方向映像。一気に青く、明るくなった視界に目を細め、状況を再確認。敵機残数と距離関係は小さくまとめられ、前方には主砲の照準となる薄い円と十字が──しかし、撃つにはまだ早い。

 コールガが戦闘状態に入ったことを確認すると、ブラッドは右足を踏み込んで加速。操縦桿を引いて一気に上昇する。

 黒点はモニタ前方から消えた。しかし、相対距離を見てみると、距離の開き方はコールガの移動速度に対してあまりに遅すぎる。