Code0:SWORDFISH
逃げるべきだ。ここで死ぬ必要はない。──そんな言葉が力を持つはずもない。
ここで死んだからといって何になる。──そんな問いが彼らを止められるはずもない。
無線越しに怒声を放っていた部隊長も、飛行中にふざけた会話をかわした同僚も、自分自身の信条のため、公国のため、家族のため、仲間のために死んでいった。
それを止める権利は、ブラッドにない。それだけの決意を見せつけられた。
──それを裏切るわけにはいかない。
ブラッドと襲撃者は、互いに視線を交わしながら円を描くように旋回する。様子をうかがっているのだろうか、それとも戯れに付き合っているだけなのだろうか。先刻まで猛禽のごとくソードフィッシュに襲いかかっていたというのに、襲撃者はブラッドと一定の距離をおいたままだ。
ブラッドが見ている限りでは、こちらの存在が知られている以上、襲撃者から逃れることはできないように思えた。奇襲をかけようとしても、相手の反応速度の方が速い。後ろにまわろうにも、相手の方が一枚も二枚も上手だ。逃げるなどもってのほかで、射程外まで飛ぶよりも引き金を引く方が速い。
いちかばちかの賭けすら介入の余地がない。
そもそも、「逃げる」という選択肢も、「自滅覚悟の特攻」も、まざまざと見せつけられた部隊員たちの「死に方」に対して、あまりにも失礼なものだとブラッドは思う。
どうあっても生きるべきだ、と。生きて、生き抜くことができなかったら、せめて自分の信条から逃げない。その結果、死ぬことになったとしても。
「……だったら」
独り呟いて、ブラッドは操縦桿を握りなおした。