序
コーヒーを淹れ終えたらしい。手に持った二人分のコーヒーカップをテーブルに置いて、六呂師の正面に座った。
「……先生。際どいです」
「? なにがだ」
聞かれて六呂師はもごもごと言いよどむ。
自分の正面に座っている水上は、白衣は着ているものの、その下の衣類はストライプが入ったシャツと短めの黒スカートで。正面に座られ、さらに足まで組まれると目のやり場に困ってしまうわけで。
「なんだ。意外とウブなんだな」
「よ、余計なお世話です」
「可愛いところもあるじゃないか。ふふ、しかし残念だ」
「残念?」
「ああ。私の守備範囲は私の年齢から下四つまでと決まっているのだ。ここで君に手を出さない無礼をどうか許してくれ」
水上はなぜかニヒルな笑みで、おまけに得意げだった。
「さておき、今日君を呼んだのは他でもない。大事な話がある」
その言葉に六呂師は背筋を伸ばして居住まいを正す。
「大事な話、と言いますと?」
「うむ、実は私は──年下の女の子が大好きなのだ」
「知らねえよ!」
正した姿勢が一気に崩れる。テレビでよく視る雛壇芸人がやるような転び&手首の返しの鋭い突っ込みが炸裂した。
「知らねえよとは随分だな。君も女の子だ。廊下をすれ違う時、授業中、トイレetc……私がいつでも君を狙っているということをゆめゆめ忘れるな」
水上はなぜか不敵な笑みで、おまけに満足げだった。
しかも守備範囲外だと言っておきながら次の瞬間、背中に気を付けろいつでも狙っているぞと宣言しているあたり、実際の年齢が読めない。すさまじくちぐはぐだった。