序
2
六時限目終了を告げるベルが鳴り、それぞれがそれぞれの放課後に入っていく。
六呂師は帰宅部だからそのまま学校を出るつもりでいたのだが、玄関で外履きへ履き替えようとしたところで呼び出された。
「二年E組、六呂師司さん。職員室まで来て下さい」
校内放送である。
しかも聞き慣れた声の。
無視するわけもいかず、呼び出されるがままに(当たり前のこと)職員室へ向かうと、呼び出しをした張本人が六呂師の姿を確認するや親指で隣の部屋を指した。
職員室隣にある一室。ソファーとテーブルが並ぶそこは給湯室を兼ねた休憩スペース。
「まあ、楽にしてくれ」
白衣を羽織った茶髪の女教師。書道部顧問・水上咲良は、六呂師に座ることを促してキッチンへ向かう。年齢は二十代前半あたり。しかし言葉遣いのせいか実年齢より少し年上に感じてしまう。
水上は背を向けたまま問う。
「コーヒーで良いかい?」
はい。と簡素に返す六呂師。
「まったく愛想がないな。愛想は大切だよ。愛はなくとも、相手を想って振る舞いをよくすることで上手くいくことだってあるんだから。まあ、相手が私という状況に限っては、いいさ。でもまさかその他諸々の他人様に対して、そんな無愛想っていうことはないだろうね?」
説教じみた言葉に、六呂師はため息まじりに悪態をつく。
「人あたりがいい奴が本当にいい奴だなんて、そうとは限らないでしょう」
「ふはは。噛み付くね。それは君の哲学かい? 可愛い顔が台無しだよ。女の子ならニッコリ笑わないと」
そう言って水上は笑う。