第四章
元々、ヴィオレは人のいるところでの戦闘に慣れていない。それはハイジア全体に共通することで、そもそも人間が活動できるようなところでペストと戦うなど、浅間が完成する以前にしか起こらなかったのだから当然だ。
「浅間にはいろんな人がいるんだね」
レゾンの案内が途切れたところで、ヴィオレはぽつりと言った。
浅間が三層構造であるからといって、下層をそのまま三倍した程度の認識しかしてこなかった自分が、心底愚かだと思える。下層は重要機関の集まりだ。そこにいることができるのは、人工知能とハイジア、その他はなにかしらのエリート層であることは間違いないのに。
「集まっていた人間は恐ろしかったか?」
「ちょっとね。でも黒い装備の人たちは大丈夫だった」
「警察だ。所属機関から情報と任務を与えられて動いていると、大抵の人間ならああやって行動できる。が、一般住民はそうもいかない。情報がないからな」
レゾンはそこで一呼吸置いた。ナビゲートの更新はない。浅間内の道はほとんどが直線で構築されているから、すでにペストの侵入地点へ続く道に入っているのだろう。
「大抵の人間は未知を恐れる。個の力で言えば、警察機関に所属している人間の方が、鍛え方の違いからして強いことは明らかなんだが──集団相手にあの人数では、個人の差など大したものではないのだろうな」
「たとえとして、あんまりよくないかもしれないけど……ハエとネズミみたいだね」
レゾンの返答はない。意味を飲み込もうとしている、というよりは、呆気にとられているような沈黙だった。