第二章
それなら、ヴィオレが失敗作であることにも意味がある。
科学者たちからの白眼視にも耐えられる。他のハイジアより不利な戦いにも耐えられる。四人のハイジアを犠牲にして手に入れたものはちっぽけだったけど、また次に生かせるならば悪いことではあるまい。
──そう、思っていた。
「バカみたい」
いつの間にか、ヴィオレは口に出していた。
表に出す前にいつもつっかえてしまう本音が、今はやけに素直だ。
「バカみたいじゃない……私が」
ヴィオレ、と呼ぶ声が遠く聞こえた。
もう名前を呼ばれることすら嫌だ、とヴィオレは思う。紫の意味を持つ名は、ハイジアになると同時に与えられた識別コードのようなものだ。
ヴィオレとは、希望を一身に受けた名前だった。
ヒトでは存在し得ない紫の光彩は、世界の放射能汚染を止める希望が込められていた。浅間に閉じこもる生活が終わるかもしれない未来を、ヴィオレという名に見たのは何人だったのだろうか。
多少ペストをうまく殺せるようになったところで、失敗作のヴィオレに向けられる視線が変わるはずもない。ヴィオレに期待していたのは、そんなことではなかったからだ。
「ちょっとでも期待に応えようって思ってた私が、バカみたいじゃない」
ヴィオレはフードをかぶった。そして、最下層から出るためのたったひとつの階段を、逃げるように駆けあがる。
スピーカーから聞こえる雑音も、右足首が放つ痛みも、何もかも無視してひたすらにヴィオレは走り続けた。
もう、誰のことも信用できそうにない。