第二章
問いではなかった。確認ですらなかった。ヴィオレは確信して糾弾した。
ヒトを導く人工知能であるレゾンは、ハイジアのヴィオレに隠し事をしている。
知りたいことならばなんでも教えてくれたレゾンが、自分に向けてなにも言わないことが、ヴィオレには恐ろしくてたまらなかった。
自分を拾い、かわいがってくれたハイジアの少女たちが、念動力のペストに殺されたことだって教えてくれたレゾンが口を閉ざすなど、あってはならないことだった。
それ以上にレゾンの口を重くするものが、存在していいはずもない。
ざり、とスピーカーが息を吹き返す。
「きっとヴィオレは私を嫌う」
ノイズまみれの合成音声は、子供が泣きながら訴えようとしているのに似ていた。
「私は重大なバグを放置し続けていたのだ。今更それに気づいた。私はヒトを存続させるための人工知能だ。私が維持されるにもヒトという種は必要だ。だというのに種と個をひとつのものだと考えていたのだ。種を守るためなら迷いなく個を捨てるべきだったのに」
「レゾン……?」
要領を得ない言い訳のような言葉の羅列は、ますます子供の癇癪じみていた。
これほど音声が乱れていながら、金属製の球体に変化がまるでないのがむしろ不気味だ。いっそガタガタと震えてくれれば、レゾンがそこにいるものだと認識できるはずなのに。
「──ヴィオレをドクター・御堂に託したのは私の判断だ」
突然現れた御堂の名に、ヴィオレはすぐさま立ちあがった。
なにも考えずに力を入れた右足首が鈍く痛む。テーピングの圧迫も、今は煩わしいものでしかなかった。