第二章
当時レゾンから受けた説明によれば、現在の放射能汚染は地下深くに埋められた放射性廃棄物が開封されたことから発するらしい。封印するための物質自体はまだ残っているはずで、念動力さえあれば再封印は不可能ではない。
ヴィオレの組み替えやすいDNAがあれば、念動力を発揮したまま仮死状態に陥らせることも可能で──実現すれば半永久的に汚染物質が封印されるはずだった。
「──もう終わった話だ」
流れを断ち切るように、レゾンは言った。
そうだね、と応えた息は、ヴィオレが意識したより重い。硬く冷たい床すら、溶けて沈み込みそうなほど。
「なんで私は失敗作になっちゃったんだろう」
風のようなノイズが、強さを増した。
「中途半端に、生き延びちゃって……成功してれば、役に立てたのに」
呟いたヴィオレに応えたのは、ただの騒音と化したノイズだった。
たとえるなら、浅間の外で急制動をかけたときの、靴底が地面を噛む音に似ている。断続的に鳴るノイズとは裏腹に、レゾン自体にはなんの変化も起こっていないから、おそらく内部に異常をきたしたのだと考えられた。
レゾンは自我を持つ人工知能だ。アウトプット装置に接続した状態で電脳内に乱れが生じれば、その乱れはノイズとなって外に漏れる。仮にこれがスピーカーの故障によるノイズだとしたら、スピーカーに取りつけられたランプが赤く点灯するはずだった。
「レゾン……?」
ヴィオレの声に応えるものはなかった。
むしろ、ノイズは完全に消失した。スピーカーが切られたのだ。
「なにか隠してるの?」