第二章
難しくない質問のはずだった。
ヴィオレの前に、そういうレールが敷かれていたからだ。レールを敷いたのはレゾンで、言われるがまま、教えられるがままに生きてきたヴィオレに拒否権などないし、権利を放棄するのも当然の流れだった。
しかし、その答えは全てを語っていないような気がする。
ついさっき咄嗟にはぐらかしたなにかが、掴みとれなかったなにかが、ヴィオレの前に尻尾を見せていた。
「私がなにかの役に立てるから」
息をのむように、ノイズが消えた。
「だから、私はレゾンの計画に同意した」
「封印計画、か」
絞り出すような口調で、レゾンが言う。
「あれは──あれは確かに、ヴィオレでなければ、ヴィオレがいなければ発案しなかった。同じ環境を強制的に作ることはできるが、あまりにリスクが高すぎる。浅間に近づくペストも、操作することはできない」
ヴィオレが上層で産まれ、塔の上でハイジアに発見されなければ。
十年前、念動力を持つペストが浅間に接近し、ハイジアたちに討たれなければ。
五年前、ハイジアになるために十分な成長をしたヴィオレが、健康体でなければ。
「念動力で汚染源を埋めて、開かないようにするだけだったのになぁ」
ようやく繋がろうとした可能性の糸が、まさか「念動力が体表から五センチの範囲に限定されなければ」という条件で切られるとは、思ってもみなかった。