第二章

「あぁ。放射能を浴びすぎていたからな。すぐに死ぬと分かっているものを生かすだけの余剰は、浅間にはない」

「なんで死ぬのかは、よく分からないんだけど」

 レゾンは、砂をこするような──ため息のようなノイズをこぼした。

「ハイジアの適性は、放射能汚染に深く関わっている。放射能はDNAの軽微な損傷をもたらすが、その修復が繰り返されるたびに結合がゆるんでペストのDNAを仕込みやすくなる。同時に、DNAが重大な損傷を受けるリスクが高くなり、ガン化する可能性がある──と、何度も言ったはずなんだが」

「うん、そんな気もしてきた」

 ヴィオレは茶化すように返したが、その内容のほとんどを理解していない。

 自分はハイジアになるのに都合がよかった。それだけで十二分に意味があった。理屈や理論をこねるのは科学者の役目だし、ヴィオレはそれを得意としない。

「本来なら、ヒトはヒトが育てるべきだ。が、拒否されたなら私が育てるしかあるまい。それに──科学者は検体を検体としてしか見ないからな」

「私を育てたのは消去法だった?」

「本音を言えばな。けれど、その点において後悔はしていない」

 そこで一度、レゾンはスピーカーを切った。ぷつり、という音を最後に、最下層は束の間沈黙に包まれる。

 気にするほどの長さではない。けれど、言い逃げのようにも思える。ヴィオレはもう一度金属球を見上げた。

「私にとって、人間は複雑すぎてならない」

 再び電源の入ったスピーカーから、レゾンがぼやいた。

「ヴィオレはハイジアになりたかったか?」

「うん」

「なんのために?」

「なんのため、って……」