第二章
「そう、だな。確かに私の根源のプログラムは、『人類を存続させるための最良の選択を行う』ことだ。人類にはできない選択をすることが、私の意義でも、あるのだが──」
流暢に言葉を紡ぎ出していた合成音声が途切れる。
うっすらと空気を震わせているノイズは残っているから、スピーカーは開いたままなのだろう。ヴィオレは思わず顔をあげるが、そこにあるのはただの金属球だった。
人工知能に許されたアウトプットは、あまりに限られている。
「ヴィオレを利用しようとしていた、と言ったら、ヴィオレは私を嫌うか?」
ようやく、レゾンは自分の言葉を継いだ。
なんだ、そんなことか──とは口に出さず、ヴィオレはもう一度腕を枕にして応える。
「ううん。嫌う必要があるの?」
「意思決定能力のない子供のころに、それが正しい道だと言い続けたからそう言えるんだ。本当にヴィオレはそれでよかったのか?」
「そりゃあ、今の状態には満足してないけど……」
言葉尻が掠れた。
レゾンの言葉は正しい。ヴィオレはレゾンに教育を受け、レゾンの言う通りにハイジアとなった。レゾンが敷いたレールの上を、疑問も持たずに歩き続けて今に至っている。それが束縛であるとも自覚していないのは、もしかしたらヒトとして問題なのかもしれない。
「ヴィオレは理想のハイジアになる素質を持っていた」
坦々と、レゾンは語り始めた。
「研究者にそれを認めさせるだけのデータなら、当時すでに出せていたのだが──問題は、ハイジアになれるだけの成長を、ヴィオレができるかどうかだった」
「すぐ死ぬって思ってたんでしょ?」