第二章
「レゾンは、私が怪我してると困る?」
「当然だろう」
「ハイジアだから?」
「──」
弱い風のようなノイズが、スピーカーからこぼれてくる。
「私は全ての人間が健やかであることを願っている」
「……そう」
「あぁ、いや、ヴィオレをどうとも思ってないわけではない。ヴィオレは、」
「分かってるよ」
「ヴィオレは私にとって、もっとも繋がりの濃い人間だからな」
「ハイジアじゃなくて?」
「私からすればハイジアも人間だ。先天的にはヴィオレだって人間だろう」
意地を張るように主張するレゾンに、ヴィオレは苦笑した。
長い間起動し続けている割に、どこか幼い印象がレゾンにはまとわりつく。おそらく、あえて人間との関わりを浅く持ち続けてきた影響で、表面だけの空気を読み合うような関係を保っていたせいだろう。
ヒトはレゾンの本質を読もうとはしないし、レゾンもヒトの本質を知ろうとはしない。
互いに必要なときだけ利用し合う関係が続いていれば、それ以外の部分で成長が滞るなんてこともありえる話だった。
顔に流れてきた髪を耳にかけ、ヴィオレはふと気になったことを聞いてみた。
「後悔してる?」
「なに?」
「私に関わったこと。ヒトはヒトとして、平等に扱うのがレゾンの意義でしょ?」
答えが返ってくるまでには、少し間があった。
レゾン自身すら、もしかすると意識していなかったのかもしれない。自らの行動を思い返して、今の時点から評価するという行動を、人工知能は行うのだろうか。