第二章

「そういえば、足の調子は?」

 スピーカーを復帰させたレゾンが、唐突に問う。

 ヴィオレも、今度は呆けた声を出さずに済んだ。御堂に気づかれた以上、浅間の電気系統を掌握するレゾンがヴィオレの怪我を感知していないはずがない。

「大丈夫だよ、処置はしてもらったし」

「……ドクター・御堂か」

 合成音声のくせに、どこか苦々しげにレゾンは言った。

 人工知能たるレゾンは、自ら人間と接触しようとはしない。緊急事態の伝達か、人間からのアプローチがあったときにようやくアウトプット装置を起動するくらいで、ヴィオレに対するように他愛ない会話をするのは稀なことだ。

 だから、レゾンと御堂の間に、それほど深い関係はない。二者は人工知能と科学者という関係しか持っていないし、深める機会も存在し得ないだろう。

 それでも口調に変化が及ぶのは、多少なりとも意識しているからなのだろうか。

 気にしていない素振りで、ヴィオレは適当に会話を続ける。

「捻挫だって」

「そうか。無理はしない方がいい。癖がつく」

「ここまで下りて来るくらいなら、別にいいよね?」

「来てから言うな。──まぁ、負担がかかっていないなら問題はないが」

 レゾンはヴィオレに、決して「来るな」と言わない。

 それはきっと、ヴィオレの帰る場所を最下層にしてしまったことへの後ろめたさがあるからなのだろう。親の代わりに知識を教えたレゾンは、ヴィオレに対して他の人間とは違う認識をしているようにも見える。

 人工知能として、それがいい傾向なのか悪い傾向なのか、ヴィオレには判断がつかない。