第二章
黙々と服を着ていたヴィオレに、カーテンの向こう側から声が届く。
「服を着終わったら右足を診るよ」
「……え?」
思いがけない言葉に、ヴィオレは御堂の方を向いた。垂れ下がった白い布の奥から、御堂が続けて言う。
「最初の着地で足を痛めたんじゃないか? 帰投に時間がかかったのはそのせいだと思ったんだけど」
ヴィオレは思わず口をつぐんだ。
効果範囲の限られた念動力は、攻撃と防御を同時に行うことに向いていない。自ら動き一点に集中して圧をかける攻撃か、一歩も動かずあらゆるものの接近を許さない防御か、どちらかを選ばなければならない。
御堂の言う「最初の着地」で、ヴィオレはペストの腰骨を折り、ある程度の機動力を削いだ。右足の先に念動力の圧を集中した、腰骨への直接攻撃だ。攻撃と防御は両立できないのだから、着地の衝撃は自分の体さばきでなんとかしなければならない。
その体さばきを、ヴィオレはしくじった。ごまかしているつもりだったが、御堂には通用しなかったらしい。
「……別に、たいした怪我じゃ」
「それは診てから判断するよ」
すげなく言った御堂に、ヴィオレは再び閉口する。
彼は厳しいことをほとんど言わないが、ことハイジアの身体的なコンディションについてはかなりうるさい。ヴィオレからすれば心配性に見えるほどだが、ハイジアの体調がそのまま浅間の防衛力に繋がるという点では合理的な行動だ。
ただし、御堂の言動をかんがみるに、浅間の防衛よりハイジア個人個人への心配が根底にある、とヴィオレは推測している。